大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所川崎支部 昭和50年(ワ)131号 判決

主文

一  被告は次の金員を支払え。

1  原告金城紀夫に対し金一九九九万七九四六円及び内金一八九九万七九四六円に対する昭和四九年六月一五日から右完済まで年五分の割合による金員

2  原告金城ツルに対し金一〇五万円及び内金一〇〇万円に対する昭和四九年六月一五日から右完済まで年五分の割合による金員

3  原告大城興業株式会社に対し金一一一万五五九〇円及び内金九六万五五九〇円に対する昭和四九年六月一五日から右完済まで年五分の割合による金員

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一双方の求める裁判

一  原告ら

1  被告は次の金員を支払え。

(一) 原告大城興業株式会社(以下、大城興業という。)に対し金二一二万一三六二円

(二) 原告金城紀夫(以下、金城という。)に対し金六三二四万三九一四円

(三) 原告金城ツル(以下、ツルという。)に対し金一八一万円及び右各金員につき昭和四九年六月一五日から各完済まで年五分の割合による金員

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。

第二双方の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

発生日時 昭和四九年六月一四日午前九時五分頃

発生場所 埼玉県児玉郡神川村大字二の宮二六二番地一道路上

被告運転の車両 いすずダンプカー(埼一一さ一五五三)

原告金城運転の車両 三菱ふそう(横浜一一か五八一七)

事故の態様 被告運転の車両と対向して進行して来た原告金城運転の車両と衝突したもの

2  被告の過失

被告は、運転免許を有しない運転未熟者であるのに、前記車両を運転し、しかも道路状況、天候、交通状況を良く確認して安全運転をすべきであるのに、本件事故地点の手前がカーブしており、しかも雨あがりで路面が濡れており、運転操作を誤ればスリツプする可能性が十分あるのに猛烈な速度で進行し、前方百数十メートルのところを対向し左側に停車中の耕運機を避けて道路中央部分に進行して来た原告金城運転の車両を発見したが、距離は十分離合できるにも拘らず、運転未熟のため運転操作を誤り車両を横向きにスリツプさせて対向車線の方に進入させて進行し、原告金城の車両の正面に衝突させた過失がある。

3  原告らの損害

(一) 原告金城

原告金城は、本件事故により左下腿両骨開放粉砕骨折の重傷を負い、そのため左大腿部から切断し、高橋外科病院に本件事故当日から昭和四九年一二月二〇日までの一九〇日間入院し、その後郷里の沖縄県に戻つて、同年一二月二八日から山里外科医院で機能訓練を受けて、現在に至つている。

(1) 治療費(全額労災保険により支給)

(2) 付添費(高橋病院分)(被告らが負担)

(3) 入院雑費 金九万五〇〇〇円(一日金五〇〇円として一九〇日分)

(4) リハビリテーシヨン中雑費 金一万五六〇〇円(一日金三〇〇円として五二日分)

(5) 航空運賃 金八万八二〇〇円(原告金城が沖縄に帰省してリハビリテーシヨンを受けているが、一人では帰郷できず付添が必要であつたので、付添人一人分の往復航空費も含む。)

(6) 休業損 金二七五万八〇六一円

原告金城は、原告大城興業の運転手として勤務し、月額金二三万三七三四円の賃金を得ていた。同原告は、事故後現在まで稼働が不可能で、その間の賃金を失つた。事故日から昭和五〇年六月二日までの三五四日間の失つた賃金は金二七五万八〇六一円(二三万三七三四円÷三〇日×三五四日)である。

(7) 逸失利益 金五七八五万〇二八七円

原告金城は、左大腿部を切断し、その後遺障害等級は第四級に該当し、九二パーセントの労働能力を喪失した。原告金城は、現在二九歳で六七歳までの稼働可能期間中の逸失利益をホフマン方式により中間利息を控除して計算すると、金五七八五万〇二八七円(二三万三七三四円×一二月×二〇・六二五四)となる。

(8) 慰藉料 金八二七万円

入通院分金一四〇万円、後遺障害分金六八七万円

(9) 通院交通費 金一〇万四〇〇〇円

リハビリテーシヨンを受けるため、自宅より山里医院に五二回通院し、この間タクシーを利用せざるを得ず、その片道料金一〇〇〇円を要したので、その合計額

以上合計金六九一八万一一四八円

(10) 労災保険からの給付

原告金城は、本件事故により労災保険から休業補償給付金及び休業特別支給金として金一八八万八五八〇円の支給を受けた。

(11) 自賠責保険からの給付

原告金城は、自賠責保険より後遺障害の保険金として、等級四級の金六八七万円の支給を受けた。

(12) 従つて、原告金城の損害は、右各給付金を控除した残額の金六〇四二万二五六八円となる。

(二) 原告ツル 金一六五万円

原告ツルは、原告金城の母であるが、子が左大腿部を失つて片輪となり、結婚も期待できなくなつたことを考えると、その精神的苦痛は筆舌に尽くし難くその慰藉料は年一六五万円を下らない。

(三) 原告大城興業

(1) 車両の損害 金一四三万六一四〇円

原告金城が本件事故の際運転した車両は、原告大城興業の所有で、本件事故により大破した。同原告はその修理費として金一四三万六一四〇円を支出した。

(2) 休車損 金四九万五二二二円

原告大城興業は、前記破損した車両を修理する期間(二一日間)、同車両を使用できず、その間の得べかりし収益をあげることができなかつた。同車両の事故前三か月間(九二日間)の稼働状況は、売上げ金三二〇万七四二六円、燃料費、修理費等金三三万六七八八円、人件費金七〇万一二〇二円であり、一日当りの純収益は金二万三五八二円となるから、二一日間の休車損害は金四九万五二二二円となる。

(四) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟を弁護士に委任し、その費用として、原告金城は金四一五万円、原告ツルは金一六万円、原告大城興業は金一九万円を支払うことを約束した。

4  結論

被告は、民法七〇九条により、原告らが被つた前記損害を賠償すべき義務があるから、原告金城は前項(一)及び(四)の合計金六四五七万二五六八円の内金六三二四万三九一四円、原告ツルは前項(二)及び(四)の合計金一八一万円及び原告大城興業は前項(三)及び(四)の合計金二一二万一三六二円並びに右各金員につき本件事故の日の翌日である昭和四九年六月一五日から右各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  答弁

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項のうち、被告が運転免許を有していないこと、原告金城が道路左側に停車中の耕運機を避けて右側に出て進行して来たこと、被告が原告金城の車両を発見して後、滑走して同原告の車両と衝突した事実は認め、その余の事実は否認する。被告は、無免許であるが、事故前に普通運転免許取得のため自動車教習所に通い、実技試験には合格しており、かつ、事故二年前から工場現場内では普通貨物自動車を運転しており、通常運転者と変らない技能を体得していた。

3  同第3項の事実(但し、(10)、(11)を除く)、は不知、同(10)、(11)の事実は認める。

4  被告は本件事故につき過失がない。即ち、被告は、本件事故現場に向けて、時速約四、五〇キロメートルの速度で進行していたが、事故現場は、原告金城の進行方向からみて、衝突地点手前約三五メートルのあたりから左にカーブしており、同原告は、衝突地点手前約三七メートルの地点に停車していた耕運機を避けて同原告の車両全部を対向車線(被告の進行車線)に進出させて、時速約七〇キロメートルの速度で、進行して来た。被告は、前方のカーブに突然現われた同原告の車両を発見して急制動の措置をとつたが、滑走して原告金城の車両に衝突したものである。従つて、被告は、自己の進行車線に進入して進行して来た原告金城の車両を避けようとしたものであるから、被告には過失がない。

三  被告の抗弁

1  過失相殺 仮に被告に過失があつたとしても、前記のとおり、原告金城は、前方の道路が左にカーブしていて見通しが悪いのに時速七〇キロメートルの高速で、しかも道路端に停車している耕運機を避けるために、同原告の車両全部をセンターラインを超えて被告の進行車線に進入して進行したものであるから、同原告にも右の過失がある。

2  弁済 被告の使用者である訴外西武建設株式会社(以下、西武建設という。)は、原告金城に対し、本件事故の損害金として、次のとおり支払いをした。

(一) 治療費 金四二万九五〇〇円

(二) 家政婦代 金七九万六七四五円

(三) 氷代 金一万六〇〇〇円

(四) 見舞金 金二万円

(五) 家族宿泊代 金四万〇二八二円

以上合計金一三〇万二五二七円

四  答弁

1  抗弁第1項のうち原告金城が七〇キロメートルの時速で進行していたこと、同原告が耕運機を避けるため同原告の車両全部をセンターラインを超えて対向車線にはみ出して進行したことは否認する。

2  同第2項の支払いの事実は認める。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  本件事故発生の事実(請求原因第一項)は争いがない。そこで、被告の運転上の過失の有無について検討する。

1  原本の存在及び成立について争いがない甲第一号証、乙第六ないし第九号証、丙第二号証の一、二、同第七号証、同第八号証の一、いずれも争いがない本件事故当時の被告車両の写真である乙第一〇号証の一、二、本件事故現場の写真である同第一一号証の一、二、検証写真である丙第三号証の一ないし一一(右丙号証の原本の存在についても争いがない。)、証人斉藤国男、同恵博、同木下関雄、同須川冨士夫及び同堀内今太郎の各証言、原告金城及び被告各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  被告は、自動車学校の実技課程を修了したが、学科試験に不合格のため運転免許を取得せず、従つて自動車運転をしてはならないものであるが(被告が無免許運転であつたことは争いがない。)、西武建設で運転業務に従事し、本件事故の日も車両(ダンプカー、車長五・二七メートル、車幅二・一メートル)を運転して、本件事故のあつた道路を本庄方面から鬼石方面に向けて時速約四、五〇キロメートルの速度で進行していた。

(二)  右道路(コンクリート舗装)はセンターラインで分離された片側一車線の道路であり、被告の車両が進行した車線の幅員に三・二メートル(その左側に幅員一・八メートルの歩道がある。)、その反対車線の幅員は三・三メートル(その右側は約三〇センチメートルの路肩になつている。)である。右道路は、当時小雨が降つて濡れており、滑走し易い状態にあつた。

(三)  被告は、右道路を前記速度で進行しながら、衝突地点の手前約七五メートル地点の左にゆるくカーブした個所を通過して(その前方は一〇〇メートル以上にわたり見通しが良い。)二八メートル程進行した時、前方約一〇〇ないし一一〇メートル地点に原告金城の車両(大型貨物自動車、車長九メートル、車幅二・四メートル)が被告車両の進行車線に進入して進行してくるのを発見した。

(四)  右の時、原告金城は、右の道路を鬼石方向から本庄方向に向けて約六〇キロメートルの時速で進行していたが、左にゆるくカーブした道路の左側に耕運機(幅一・三メートル位、全長三・五メートル位)が停めてあつたので、時速を四〇キロメートル位に減速しながら、これを避けて対向車線に一旦進入してから、自車線に戻るべく運転していた。

(五)  被告は、原告金城の車両が自己の進行車線内を進行して来るのを発見し、危険を感じて急制動したが、スリツプして横向きになつたまま対向車線内に滑走した。

(六)  原告金城は、耕運機の側を完全に通過してから、自車線内に戻る態勢で進行したが、被告の車両が横向きになつて滑走しながら自車線内に飛込んで来たので、衝突を回避できず、同原告の車両の右前部が完全に横向きになつた被告車両の後部に衝突して、本件事故が惹起し、同原告の車両は衝突地点で止まり、被告の車両は道路外にとび出して止まつた。同原告の車両はセンターラインをやや斜めに跨つたような状態で、即ち、車体の前部がライン内(即ち、自車線内)に、その後部がライン外(即ち、対向車線内)にはみ出した状態で停止した。

(七)  右事故の直後に、本庄方面から大型バスが来たが、原告金城の車両が道路上にあつて通れなかつたので、右車両を完全に反対車線の側に移動させてから、大型バスが通過した。

以上の事実が認められる。

2  ところで

(一)  被告本人尋問の結果中には、被告が原告金城の車両を発見した時、同原告の車両は時速七〇キロメートル位の速度であつたとの供述があるが、右供述を裏付ける資料はなく、乙第八号証、証人斉藤国男、原告金城本人の各供述に対比して、直ちに採用できず、その余に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  前記第八、九号証、第二号証の二、証人斉藤国男の証言、原告金城本人尋問の結果によれば、原告金城は、耕運機の側を通過する際、センターラインを越えて跨ぐような状態で進行したが、直ぐに自車線内に戻り、進行して、同車線内で被告の車両と衝突し、その衝撃で右側の扉が開らき、その扉がセンターラインを二五センチメートル位出ていたに過ぎない旨の供述並びに記載があるが、事故直後に事故現場を目撃した証人ら(後続車運転手の木下関雄、付近で農作業をしていた須川冨士夫、堀内今太郎、中島保義及び森正)の供述及び供述記載並びに前記認定の原告金城の車両のため丁度現場に来合わせた大型バスが通れないので、同原告の車両を完全に反対車線の側に移動させた事実、及び同原告の車両がセンターラインをやや斜めに横切るような状態で停車した事実に照らすと、原告金城の車両が完全に自車線内に戻つた状態で進行していた旨の前記供述並びに記載はいまだ採用できない。

(三)  また一方では、被告本人尋問の結果、前記乙第六号証(昭和五〇年六月一九日付実況見分調書)には、被告が原告金城の車両を発見した時には、同原告の車両は自己の進行車線内に完全に進入しており、その後も自車線に戻る気配はなく、同原告の車両が対向の被告車両の進行車線をそのまま進行して来たとの供述並びに本件事故後一年位後に、被告が事故現場で警察官に右のとおり指示した旨の記載があるが、前記認定のとおり、原告金城の車両の衝突時の状態が、センターラインをやや斜めに、その前部を自車線内に入れ、その後部が反対車線にはみ出した状態で停車していた事実、即ち被告車両の進行車線内で衝突していない事実更に原告金城の車両は大型貨物車であり、かつ、事故当時雨が降つて路面が濡れ、滑走し易い道路状況にあつたことを考慮すると、同原告は、直ちに自車線内に戻るような運転ができず徐々に自車線内に戻る態勢で運転したために、対向して進行して来た被告には、原告金城の車両が一旦反対車線に進入した後も自車線に戻ることなくそのまま進行して来るように感じたものと推認され、被告本人の前記供述並びに現場における指示は、被告の右の認識を述べたものと解するのが相当であつて、右をそのまま事実として採用することはできない。

3  そこで前記認定の事実に基づき被告の過失の有無を検討するに、被告が、原告金城の車両が自車線内に進入して進行して来るのを発見したのは、一〇〇ないし一一〇メートル前方であるから、被告としては、減速しながら対向車の進行に注意し、同車が自車線内に戻るのを確認しながら運転したならば、本件事故を回避できたのに、当時道路が雨に濡れて滑走し易い状態であるという道路状況を考えずに、暫く同速度で進行した後危険を感じて急制動の措置をとつたためにスリツプして反対車線に滑走し、自車線に戻るべく進行して来た原告金城の車両に被告車両の後尾を衝突させたものであり、従つて、本件事故は被告が運転の操作を誤つた過失に起因するものと認定するのが相当である。

二  以下本件事故により原告らが被つた損害について検討する。

1  原告金城の損害

原本の存在並びに成立について争いのない甲第三号証の一によれば、原告金城は、本件事故により、左下腿両骨開放粉砕骨折、左下腿挫創、左中足骨々折、左橈骨下端骨折、左膝蓋骨開放複雑骨折、右足関節打撲症の受傷をしたことが認められる。そうすると、被告はその過失により原告金城の身体を害したので、民法七〇九条により、同原告が受けた損害を賠償する義務がある。以下同原告が主張する損害について検討する。

(一)  治療費 成立について争いのない甲第三号証の四、五(同号証の五については原本の存在とも)によれば、原告金城は、前記受傷のため本件事故の日(昭和四九年六月一四日)から同年一二月二〇日までの一九〇日間埼玉県の高橋外科病院に入院し、その間左大腿部を切断する手術をしたこと、右治療費として金一九〇万六四五二円を要したこと、更に同原告は、同年同月二八日から同五〇年六月三日まで那覇市の山里外科医院に通院(実日数五二日)して機能訓練を受けたこと、そしてその頃同原告の症状が固定したことが認められる。右治療費が全額労災保険から支給されたことは争いがない。

(二)  付添費 原告金城が高橋外科病院に入院中付添いを必要とし、その付添費は被告らにおいて全額負担したことは争いがない。

(三)  入院雑費 前記のとおり原告金城は、高橋外科病院に一九〇日間入院治療したので、その間の入院雑費は、裁判所に顕著な金額である一日当り金五〇〇円として計算すると、合計金九万五〇〇〇円となる。

(四)  リハビリテーシヨン中雑費 前記のとおり、原告金城は山里外科医院に五二日間通院して機能訓練を受けたことが認められるが、そのために支出した諸雑費についての立証がない。(原告金城は、右諸雑費として一日当り金三〇〇円を要すると主張するが、右金額が立証をまたないでも当然確立した裁判所に顕著な金額であるとは認め難いので、右主張は採用できない。)

(五)  航空運賃 原告金城は、郷里の沖縄に帰郷する際航空機を利用し、その時付添人一人を必要としたので、その分の運賃を併せて金八万八二〇〇円を支出し、これを負担したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(六)  休業損 証人恵博の証言、同証言により原本の存在並びに成立が認められる甲第三号証の六、原告金城本人尋問の結果によれば、原告金城は、運送業を営む原告大城興業の運転者として働いていたものであるが、本件事故前の三か月間に支給された給与を基準にして計算すると一か月当りの給与は金二三万三七三四円であつたこと、原告金城は、本件事故のため入院し、右事故日以後の給与の支給を受けなかつたことが認められる。ところで、同原告が原告大城興業をいつ退職したかが明らかでないが、原告金城が郷里の沖縄に帰郷したことにより、同原告が帰省した昭和四九年一二月下旬頃(弁論の全趣旨によつてこれを認める。)までに自然退職したものと推認されるから、同原告が本件事故の時から退職時までの六か月間の休業により失つた賃金相当の損害は金一四〇万二四〇四円(二三万三七三四円×六か月)となる。

(七)  逸失利益 前記のとおり、原告金城は本件事故による受傷のため左大腿部を切断したことが認められる。右の後遺障害の等級は第四級に該当し、その労働能力喪失の割合は九二パーセントであるから、原告金城(昭和二〇年一月二九日生)が自然退職時の二九歳から労働可能な六七歳までの三八年間における労働能力喪失による逸失利益をホフマン方式により中間利息を控除して現在価額を計算すると、金五四一一万二二五一円(二三万三七三四円×一二×〇・九二×二〇・九七〇三)となる。

(八)  慰藉料 原告金城が前記受傷による入院中において受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては、その入院期間を考慮すると金一一五万円、左大腿部切断による後遺障害により受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては、右障害の部位、程度を考慮すると、金五五〇万円をもつて相当と認める。

(九)  通院交通費 原告金城本人尋問の結果によれば、原告金城は、前記のとおり機能訓練のために通院した山里外科医院への通院(実日数五二日)にはタクシーを利用し、その片道料金は金五〇〇円であつたことが認められる。そうすると、原告金城が右通院に要した交通費は合計金五万二〇〇〇円となる。

(一〇)  原告金城の過失

被告は、原告金城にも運転上の過失があつたと主張するので、これを前記認定の事実に基づいて検討するに、原告金城は道路脇に停車してあつた耕運機を避けるために、進行速度を時速六〇キロメートルから四〇キロメートル位に減速しながら、一旦反対車線に進入して進行し、その通過後徐々に自車線内に戻る態勢で運転していたために、被告が約一〇〇ないし一一〇メートル前方で同原告の車両を発見しながら、同車両が直ちに自車線内に戻らないので、自己の進行車線内を進行してくるものと危険を感じて急制動をとつて、本件事故が惹起したものであつて、原告金城としては、停車してあつた耕運機を避けるために反対車線に進入することが止む得なかつたとしても、自己の運転する車両が大型貨物車であり、かつ、道路が雨に濡れて滑走し易い状態にあつたから、直ちに自車線に戻ることが難しいことを良く認識して、対向車両の進行を妨害することがないように、対向車の有無、その進行速度を確認しながら、更に減速して、速かに自車線に戻ることができるような態勢で反対車線に進入し、耕運機の側を通過後は直ちに訂車線に戻るべきであるのに、対向車の有無を確認せず(これを認めるに足りる証拠はない。原告金城本人尋問の結果中には、原告金城は耕運機脇を通過する前、一〇〇メートル位前方まで見通しのよい進路前方に車両を見ず、右通過後、自車線に戻つた直後路面を車体を横にして滑走してくる被告車両を認めたとの供述があるが、原告金城が被告の車両を発見する時期が余りにも突然に過ぎて不自然であり、右供述は容易に採用できない。)、漫然と四〇キロメートル位に減速しただけで反対車線に進入して耕運機の側を通過後徐々に自車線に戻るべく運転したことにより、対向車の被告の運転を誤らせるに至つた過失があつたものと認定するのが相当である。そして原告金城の本件事故に対する過失割合は、被同原告の過失運転が被告の運転を誤らせる原因を作つたことを考慮して、五割と判定する。

(一一)  労災保険等の控除分 前記(一)から(九)までの損害合計額は金五八一一万八一〇七円となるところ、(なお原告金城は、治療費については労災保険から全額支給されたとしてその請求をしないが、被告が労災保険からの支給分を控除することを抗弁として求めるので、治療費も損害項目に加えることにする。そして付添費についても同じであるが、その額が証拠上明らかでないので、これを損害項目に加えるに由ない。)、原告金城には前記過失があるので、前記割合による過失相殺をすると、同原告が被告に求めることができる賠償額は金二九〇五万九〇五三円となるが、同原告が労災保険から金一八八万八五八〇円、自賠責保険から金六八七万円の支給を受けたこと及び同原告が被告の使用者である西武建設から本件事故の損害金として合計金一三〇万二五二七円の弁済を受けたことは争いがないので、これを控除すると、その残額は金一八九九万七九四六円となる。

2  原告ツルの損害

原告金城本人尋問の結果によれば、原告ツルは原告金城の母であるが、息子が本件事故のため左大腿部を切断するほどの重傷を負つたことにより非常な精神的衝撃を受け、そのため医師の治療を受けるほどであつたことが認められ、原告金城が沖縄に帰省して母の許で生活している事実から、同原告一人では生活することが困難であり、母の介添えが必要であると推認されるので、右事実によれば、原告ツルが本件事故により受けた精神的苦痛は、子の生命に対するものに比肩し得る程度であると解されるから、民法七〇九条、七一〇条により、被告は、同原告に対し精神的損害を賠償しなければならず、同原告に対する慰藉料としては、原告金城にも本件事故の惹起につき前記過失があることを考慮すると、金一〇〇万円をもつて相当と認める。

3  原告大城興業の損害

被告は、原告大城興業に対し次の損害を与えたので、民法七〇九条により、同原告に損害を賠償しなければならない。

(一)  車両の損害 証人恵博の証言、同証言により原本の存在並びに成立が認められる甲第二号証の一ないし四によれば、原告金城が本件事故の時に使用した車両は原告大城興業の所有であり、同原告は、同車両が右事故のため前部を大破して、訴外神奈川三菱ふそう自動車販売株式会社に注文して修理をなし、同社に対し修理代金一三五万〇一四〇四円及びその金利として金八万六〇〇〇円、合計金一四三万六〇〇〇円を支払い、同額の損害を破つたことが認められる。

(二)  休車損 証人恵博の証言、同証言により原本の存在並びに成立が認められる甲第二号証の五によれば、原告大城興業は、運送業のため、前記車両を使用していたが、前記修理期間(昭和四九年六月一四日から同年七月四日までの二一日間)中は休車せざるを得なかつたこと、右車両の事故前三か月間の稼働状況は、売上げ合計金三二〇万七四二六円、支出分として、燃料費、修理費、タイヤー費合計金三三万六七八八円、人件費(原告金城の給与)合計金七〇万一二〇二円であることが認められるので、前記事故車両による一日当りの収益は金二万三五八〇円(三二〇万七四二六円-〔三三万六七八八円+七〇万一二〇二円〕÷九二日となる。そうすると、前記修理期間中の逸失利益は金四九万五一八〇円(二万三五八〇円×二一日)となる。

そうすると、原告大城興業が本件事故により受けた損害は前記の合計金一九三万一一八〇円であるところ、本件事故は同原告の使用人である原告金城の業務中の事故であるから(弁論の全趣旨に照らして争いがない。)、同原告の前記過失を考慮せざるを得ないので、原告大城興業の求め得る賠償額は右損害額の五割に相当する金九六万五五九〇円をもつて相当と認める。

4  原告らの弁護士費用

本件事故の態様、訴訟の経過、認容額等の諸事情を考慮すると、原告らが被告に求めることができる弁護士費用相当の損害は、原告金城については金一〇〇万円、原告ツルについては金五万円、原告大城興業については金一五万円をもつて相当と認める。

三  よつて、原告らの請求は、原告金城については、前記認定の損害合計金一九九九万七九四六円及びこれから弁護士費用相当分を除く金一八九九万七九四六円に対する本件事故の日の翌日である昭和四九年六月一五日から右完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告ツルについては、前記認定の損害金合計金一〇五万円及びこれから弁護士費用相当分を除く金一〇〇万円に対する前同日から右完済まで前記割合による遅延損害金、並びに、原告大城興業については、前記認定の損害合計金一一一万五五九〇円及びこれから弁護士費用相当分を除く金九六万五五九〇円に対する前同日から右完済まで前記割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当であるから、これを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上村多平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例